2024.10.11
永遠の相方・三上大樹アナウンサーへ哀悼の意を込めて
スポーツ解説者と実況アナウンサーは、いわば漫才コンビにおける「相方」のような存在だ。モニターやら、カフやら、放送機材が所狭しと並べられている窮屈な実況解説席に二人で座り、目の前で繰り広げられているアスリートのプレーをじっと凝視する。でも、それと同時にどんな時でも解説者と実況者は視界の隅で、常に必ず互いの横顔を追って、一挙手一投足、息づかい、表情を見ている。相手がどのタイミングで話し出そうとしているのか、プレーのどこに注目していて何を話そうとしているのかを慮りながら連携を図っているからだ。解説者と実況者はこのような間柄だから、私は長年一緒に実況解説席に座ってくださるアナウンサーを、最大限の敬愛を込めて「相方」と呼んでいるのである。
10月5日、そんな私にとってかけがえのない相方である三上大樹アナウンサーが、病により38歳という若さで天国に旅立たれてしまわれた。
三上アナは、テレビ朝日のスポーツ実況者として16年のキャリアを持ち、野球、フィギュアスケート、プロレス、サッカー、バスケットボール、バドミントン、テニス、水泳、フェンシング、体操、アーティスティックスイミング、カーリング、マラソン、駅伝など、実に多くの競技を語ってきた。ほんのわずかな精鋭アナウンサーしか選抜されないというジャパンコンソーシアムの実況者にも選ばれ、2022年の北京冬季五輪や今夏のパリ五輪の中継放送でも活躍された。まさに日本を代表するスポーツ実況者の一人であった。
お人柄は物腰が柔らかくて実直。プロレスラーの棚橋弘至さんも追悼コメントの中で「彼の実況は本当に見たままを素直に、時に怒り、時に興奮しつつというか。本当に人柄が出るような実況だったので。実直さがにじみ出てましたよね」と評するように、三上アナの実況はいつでも競技のフィールドで必死に闘っているアスリートに寄り添ったものであった。そして、競技の展開やアスリートの機微を声にして表すのが実に上手い。
生前、三上アナは自身が実況する時の心情を次のように語っていた。テレビ朝日入社15年目の記念に行われたインタビュー(2023年1月25日)での言葉だ。
近年、特に感じるのは元高校球児として、夢だった甲子園に携わる仕事のとき。若手の頃は 「このプレーのために、どれだけ練習してきたのだろう」 「甲子園でホームラン打つってどんな気持ちだろう」 と羨望と憧れの目で球児たちのプレーを見ていましたが、年齢を重ね、自身も家族を持つと 「このピンチ、お母さん、今どんな気持ちで見守っているんだろう」と親目線で見るようになっていました。これも重なり、涙腺はどんどん緩くなるばかり…。実況に支障が出ています。
自分の目標に向けて、まだまだスピードを緩めず、全力疾走し続けながらまわりと歩幅を合わせて、仲間や取材対象者、視聴者に、少しでも歩み寄れるアナウンサーになっていきたいです。
この三上アナの言葉の通り、彼の実況の根底にあるのは、アスリートに対する「共感の眼差し」だったのではないかと私は思っている。三上アナ自身も高校球児としてエースの背番号「1」を背負ってマウンドに立っていた人だから、アスリートの頃には血の滲むような努力を重ねてこられたはずであるし、当然アナウンサーとしてもプロの話術を磨くために計り知れないほどの時間とエネルギーを費やしてこられたはずだ。
そうした経験をされていたからこそ、三上アナは目の前のプレーをただ表層的に見るのではなく、その裏側にあるはずの途方もないアスリートの努力や、それを支える人々の気持ちにも思いを馳せて実況されていたのだろう。
私と三上アナがコンビを組み始めたのは、ちょうど一年前の秋であった。昨年の10月から12月にかけて連続して開催されたフィギュアスケートのグランプリシリーズという一連の競技会で、初めて共に実況解説席に座った。はじめのうちはコンビ結成直後というだけあって、互いに相手の語り方やスタイルを探りながらの実況解説であったのだが、三上アナが事あるごとに「町田さんはどのように解説したいですか、私の実況に関してやりづらいことがあれば遠慮なく言ってください」と細やかに私のことを慮ってくださったおかげで、わずか3ヶ月ほどの短期間で絶妙なコンビ関係を築くことができた。
個人的にも偶然名前が「大樹」と「樹」であったから、三上アナのことを兄貴分として慕っていたし、何より「この人とずっとフィギュアスケートの実況解説をしたい」と心から思っていた。三上アナが旅立ってからというもの、自分たちの実況解説を何度も反芻しているが、私は三上アナという大きな樹に抱かれていたから自分の思うようにしゃべることができていたのだと、改めて三上アナの懐の深さをしみじみと実感している。
今週から三上アナと共に実況解説する予定であった、テレビ朝日のフィギュアスケート・グランプリシリーズが開幕します。三上アナと共に実況解説席に座れないことが寂しくて仕方ないです。けれども、彼の「共感の眼差し」でスポーツを語る姿勢を新しい相方である大西洋平アナウンサーと共に継承して、今季も熱を込めて解説していきたいと思います。
三上大樹アナウンサー、私とコンビを組んでくださり、ありがとうございました。これから先もずっと、実況解説席に座る私の目には、相方であるあなたの横顔が映り続けていることでしょう――。
2024年10月11日
町田 樹